「逆に聞きたいが、たかが1MHzを発振させる事が出来ないトランジスターって何ですか?」
って言っても過言ではないくらいに、トランジスター、FETなら何でも使えますよ、っていう世界なのです。発振させた電波を増幅する場合もそうですが、正直、汎用として誰でも知ってる2222や3904を1つ使っただけで、0.5W~1Wの出力を得られます。なんだったらもうディスクリートで設計されているオーディオアンプの回路に、発振器からの出力を繋いで上げるだけでパワーアップできます(実際には多少は変更必要)。
物凄く極端に言うと
市販のオーディオアンプの入力端子に、発振器出力を繋いで、スピーカー端子にアンテナを繋いでボリュームを目一杯あげれば送信機の出来上がりなのです(実際にはオーディオアンプ内に、音声周波数帯域である20Hz~20KHzのフィルターが入ってる場合は無理、と言った細かな部分はあります)。
余談ですが、最近主流であるPWM技術(正しくはPDM)を使ったAM送信機の場合、増幅器の回路はほぼほぼ、昨今主流のD級、デジタルオーディオアンプそのものだったりします。
面白いのが、赤ちゃんの鳴き声をハイビットサンプリングして、そのまま逓倍波を取り出すだけで、AM放送の電波が得られる、ってのもありますが、技術系の人だと、「それ当たり前でしょ」ってなりますが、そうでない場合は俄かにオカルト化する、と言った面白い世界でもあります。
さて
では本題。
【最も簡単にAM放送電波を得る/4060編】
この4060と言うのは、CMOS4000シリーズの一種です。ノーマルのCD4060、ハイスピード低電圧版の74HC4060。現在でも時計のベースクロックを作り出す際にも使われていますね。と言うのは、4060は内部に発振器、分周器(Divider)が内臓されていまして、非常に便利なICなのです。ちなみに、74HC4060の場合は、50Ω負荷で約100mWの出力が得られます。流石にその状態での連続使用はマズイでしょうけど、電波発振器として捉えると非常に扱いやすい出力なのです。勿論そこにバッファやボルテージフォロワなどでインピーダンスを下げて使うなんて事も出来ます。矩形波ですので、スプリアスは出ますが、それも最終的には送信機の出口にLPFなりチューニング回路を付ければ解決です。或いはもう4060の出力部分にBPFを付けてしまうのも良いでしょう。
そして
CD4060の場合、トランジスター3個の簡単なバッファ
【最も簡単にAM放送電波を得る/4069+4040編】
一見して複雑そうに見えますが、各部を見てみると実にシンプルです。
まずインバーターが6個入ったCD4069(5Vハイスピード版だと74HCU04)の下側3つのインバーターで、水晶発振させます。どうして3つのインバーターを使うかと言うと、出来るだけローインピーダンスで発振させる事が目的です。1つだけ使っても良いのですが、折角6つも入っているんですから、使っちゃいましょう。そして、その出力は、分周器のCD4040に入ります。4040は単なるカウンターICですが、同時にそれは分周器としても使えます。4040に入ってきた信号は、1/2, 1/4, 1/8, 1/16と入った予め内部にセットされているフリップフロップ回路において、間引きされます。原理は簡単で、入力されるクロックが1秒間に8回のパルスならば、1/2端子からは1秒間に4回のパルス、1/8端子からは1秒間に1回のパルスとなって出てきます。単一の分周だけで良いのならば、下にある4接点スイッチは不要で、必要とする分周端子と10KΩを直結すればOK。
さて、10KΩを通った信号は今度はまた4069の上側3つのインバーターに入ります。ここで、LPFを形成するか、又はLPFを使わずに済ませるか、その切り替えスイッチを付けていますが、LPFを使わないならば4069の11,12ピンをそのまま繋ぐだけでLPF部分は無視して下さい。そして、最終的には4069の8ピンが、発振器としての最終出力になりますが、当然ですが端子には1/2VCCの電圧が乗算されています。これを0.1uFのコンデンサーで阻止し、短絡した際の保護も兼ねて10Ωを通して最終出力となります。出力は約100mW(50Ω)。
Option Bufferはお好みで。これを付けると出力は700mW以上になります。
って事で、早速実験ユニットを作って実験しましょう。
因みに9KHzステップの国で、この回路で使う事の出来る水晶発振子は
4.500MHz
4.608MHz
5.760MHz
10.368MHz
11.52MHz
23.04MHz
9.000MHz
9.216MHz
18MHz
18.432MHz
これらは、1/4, 1/8, 1/16の分周でAM放送バンドの電波を出す事が出来ます。比較的入手し易い物のみを列挙しましたので参考にどうぞ。
74HCシリーズは5V動作が定格で7V程度が限界です。それに対して4000シリーズは20V程度までを動作電圧としています。当然ながら出力される振幅もHCシリーズよりも大きくなっており、送信機として構成する場合は74HC版ではなく、通常の4000シリーズを使いましょう。勿論HCシリーズが悪いと言うわけではなく、HCシリーズは5V動作で4000シリーズよりも高い周波数まで対応していると言う利点もありますのでね。
さて、今度はOption Bufferを繋いでみます。700mW程度の出力にアップするはずです。
はい、ご覧の通り、7・・・・
え?
( ・д⊂ヽ゛
( ; ゚Д゚)
しゃっちょさん、しゃっちょさん、最近少し頑張り過ぎではありゃしませんかいΣ(・∀・;;;)。
1.5Wて!Σ(・∀・;;;)
ちなみにですが、Option Bufferの各抵抗は、通常の1/4W抵抗だとかなり熱くなります。下手すると触れないくらいに。なので実際に採用する場合は、並列接続で指定の抵抗値を得るか、元々を1W抵抗などの高電流抵抗を使うようにしましょう。
って事で、このOption Bufferでは出力の制御がし辛いので、この出力はちょっと使いづらいって場合は、適当にアッテネーター回路などをOption Bufferの後にでも設けて使って下さい。
尚、Option Bufferは、4069出力に乗っている直流成分をバイアスとして使用して動作していますので、Option Bufferの入力にカップリングコンデンサーを入れると動きません。どうしても入れる場合は、Option Bufferの最初のトランジスターにご自分でバイアス抵抗などをVCCから引っ張ってきてください。
【まとめ】
今回は単純なコイル、コンデンサーによるコルピッツタイプ、本格的なPLLやDDSは紹介しませんでしたが、AM放送バンドの電波を作り出したり、それをパワーアップすると言うのは比較的に簡単に行えます。AMで言うとキャリア(搬送波)の生成ですわね。
じゃあAMの難しい部分は?
それは、この作り出した電波に変調をかける、という部分であります。
何となく変調をかける、ってのならば、この後に設ける変調トランジスターに加えるVCCを音声信号に応じて上下させるだけで可能です。ただ、事はそう簡単には行きません。
AMはFMとは全く違う形式です。FMならば単純に作り出された信号を適当なC級アンプなどで増幅すれば、送信出力も上がりウハウハになるのですが、AMの場合は違います。AMは、搬送波に乗せる信号レベルに応じて、出力される電波信号レベルが変化します。
簡単に言うと、この1.5Wの搬送波を次の段の変調トランジスターでAMさせると、6Wもの出力になります。凡そですが、100%変調は搬送波の4倍。つまり、1.5W~6Wまで、綺麗で直線的な増幅特性を持つ回路にしなくてはなりません。4W付近までは直線だけど、4Wを超えると増幅率が滞る、っていうような回路だと、変調レベルを上げていくと、70%音量程度から歪み始めます。かと言って、単純にこの1.5Wを減衰させて、0.5Wに抑えればOKかと言うとそうではなく、その場合、0.1W~1W付近までの特性が直線的じゃない、って場合もありまして、今度は小さい音量でも歪んだりするのです。また、そもそも変調トランジスターの能力が2Wが限界などといった物を使いますと、2Wを超えた段階で飽和してしまい、、実効電力としては下がってしまう事で結果的にパワー計では音声が入ると出力が下がると言う現象が現れます。これをマイナス変調と言ってますが、これを簡単に説明するスキルは私にはありませんので、
http://hasler.ece.gatech.edu/Courses/ECE6414/Unit5/Multiplier.pdf
これなんかは比較的簡単に書かれていますので皆さんで理解下さい。
要するに、1.5Wの搬送波がありました、と。AM変調をかけます、と。そしたら最低でも6Wを余裕で出力できる変調回路が必要です、とまあそんな感じです。
何だかんだと難しい事を書きましたが、製作物としては
1:部品点数を限りなく少なく
2:実用品質である
と言うのがポイントにありますので、もう既に帰り支度をして「二度と来るかこんな講義」とか思わないで下さいね^o^。