6/24/2017

AMトランスミッター『菊水』を1000円以内で作ろう~

尚、菊水の基本は、音響処理などは一切排除し、最も最低限の構成ですので、これだけを使ったからと言って、流石に一般放送局の音がそのまま手に入る訳では有りませんので、ご留意下さい。

ラジオ受信機よりも簡単な構成のラジオ送信機。この世で最も簡単に作れるAMラジオトランスミッターです。簡単に作れると言ってもそれは、オモチャレベルではなく、放送局品質とまでは言いませんが最低限、実用に耐えうる品質を基準としています。尚、品質を更に落として、歪もうが何しようがとにかく音が乗れば良い、という部分にまで基準を落とす場合は、適当にYouTubeを探すと、作っている方々が多く居ます。ですが私は、実用レベルと言うのが最低条件であります。







回路を見て頂くと分かりますが、発振器回路ICの16ピンにご注目。ここには本来、このICを動作させるのに必要な電源(VCC)が接続され、規定の5Vが供給されます。しかし、この回路では電源からは変調トランスを介して16ピンに入れています。そして、トランスの1次側には、LM386オーディオアンプの出力が接続され、このトランスの2次側を通過する電源電圧を直接上下させて、振幅変調を実現しています。本来ならば、発振器の後に、プリドライバー、ファイナル回路と続き、AMの場合はファイナル回路(理想はプリドライバー段も含めて)に対して変調制御を行いますが、元々が水晶発振である事から、余程で無い限り、周波数がずれる事はありません。よって、このような回路でも充分にAMを実現可能なのです。但し、これと同じような発想で、コルピッツLC発振回路、PLL, DDSなどに用いますと特性がズレまくり、周波数がずれたり、そもそも歪んだりしますわね。

[魅惑のムービー]

https://drive.google.com/file/d/0B4-VyBLOuHgeejZmVjJPd1N5QkU/view

どうですか?耳の良い人ならば、おや?なかなかではないかい?ってお墨付きを得られると思います。

動画について、OPTIMODは使用していませんが、単純なフルバンドコンプレッサーリミッター(自作のVGA方式のやつ)を使用しています。また、受信機はSONYのCXA1619チップを使用して作りましたアナログ受信機であります。

つまり、菊水送信機→CXA1619→皆様が聞いている音

になります。

[更に簡単に]


レベルメーター回路は不要だ~、って場合はこれでOKであります。

[更に更に簡単に]


オーディオアンプ部分なんて不要だ~、って場合はこれでOKです。お手持ちのお気に入りアンプのスピーカーラインを、変調トランスへと直接ぶち込んで下さい。あなたのアンプがBTLだったとしても大丈夫。トランス1次側の2線は、そのままアンプの+と-に接続出来ます。

[更に更に更に簡単に]


オーディオアンプなんて持ってません。尚且つオーディオアンプ回路を作るのが面倒です。PCのヘッドホン出力ならあります。

そんな時は、トランスを1:1で、600Ω:600Ωなどのライントランスを使えば、もしかすると行けるかも知れません。

因みに、私の調べた限りでは、実用レベルの品質(周波数安定度、変調品質)を保った上で、尚且つ世界で最も簡単に、入手性がとても良い部品のみを使って作れるラジオ送信機は、この菊水シリーズであります(このブログ執筆時点)。一言言わせて頂くと、実用レベルである一般的なスーパーヘテロダイン方式のラジオ受信機を作るよりも簡単であります。

[PCB配置の一例]


プリント基板を作成しても、ユニバーサルPCBでももちろんOKです。何だったらもう部品同士をそのまま配線する木の板上に空中配線で作ってもOK。扱うのは発振回路では20MHzが絡みますが、凡そは1MHz程度ですので、多少は引き回しても大丈夫で、特に発振回路は配線さえ間違わなければ、99%、誰でも発振させる事が出来ます。トランジスターで作るコルピッツ発振回路なんかよりもよほど簡単に発振させる事が出来るのも、今回採用しましたロジックインバーター式(ゲート式)の良い所であります。

LPFが存在していないように思えるかもしれませんが、出口にあるマッチング回路にて、それを同時に再現しています。

[主要な部品

74HC4060 (\40)
http://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-08607/

LM386 (\60)
http://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-10583/

ST-32 (\540)
http://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-09618/

変調トランスとして用いる8Ω:1200Ωのトランスは、日本製ですと\540となかなか高価ですので、2次側が2KΩ以内ならば、他の安い中国製トランスでも使えます。今回紹介しましたのはあくまで日本国内の入手先です。

[使える水晶


USING XTAL     > Output Frequency

18MHz          > 1125KHz
18.432MHz      > 1152KHz
20MHz          > 1251KHz(closer)
20.045MHz      > 1251KHz(closer)
23.040MHz      > 1440KHz
10.368MHz     > 648 kHz

12MHz          > 750KHz
12.8MHz        > 800KHz
16MHz          > 1000KHz
20MHz          > 1250KHz
24MHz          > 1500KHz


[アンテナ部分にある100p~250pトリマーは?]

このトリマー、又はバリコンにより、1mのワイヤーにマッチングを行います。本当はRF計やRF表示回路があれば良いのですが、菊水では可能な限り部品点数を減らしている為、この調整も凡そで行いましょう。適当に音楽でも流して、音割れが最も少ないところに調整してください。RFプローブ、電界強度計(正確な物でなくとも、電波強弱が見れたらそれでOK)を持っている場合は、最大出力点に合わせます。

[発振回路の説明

どうしてこれでAM放送バンドの電波が得られるのかを簡単に説明します。まず中枢であるHC4060と言うICはとても古くから存在するICであります。主に時計のクロックなどもこのIC一つと水晶発振子だけで生成できてしまう便利なICなのです。簡単に言うと、発振器とプログラマブルディバイダー(分周器)が1パッケージに内臓されており、比較的安価に入手性も良い素敵MAXなICなのです。本来は基準クロックを作り出すICなのですが、高周波的に見ますと、凡そ、中波ラジオバンドを出力する場合、なんと、50Ω負荷でも約100mWもの信号を出力します。なのでとても使い易いICなのです。

では内部を見ていきましょう。


これが4060の内部構成です。左側にはゲートユニットが内臓されておりまして、これにコイルとコンデンサー、又は水晶発振子を付けるだけで基準クロックの生成は完了。本日の残業は無しです。

そして、その発振した信号は、内部の次のユニットである、分周ユニットに入ります。ここから、

このような分周をします。分周とはつまり、入ってきた信号のクロックを間引く事を言いまして、分かりやすく言えば、何分の一するか、ってやつです。予めその、何分の一するかは内部で選択肢が用意されています。それが上のクロックチャートになります。今回私が利用したのは、赤く囲った部分ですわね。RSは発振した信号。16回振幅をカウントしたら、Q3には1回の振幅が出力されます。つまり、発振周波数の1/16の信号がここに出てきます。クロックチャートの見方は、基本的には、クロックの立下りを見ます。Q4の端子を使う場合、発振周波数の1/32の信号が出力されます。応用される場合は参考にして下さい。で、このQ3の端子に出てくるのは、16MHzを発振した場合は、1/16ですので1MHz、つまりは1000KHzの信号が出力されます。本来はそれをプリドライブ段とファイナル段にて増幅し、それど同時にそこに音声による信号の上下を付け加えて、AM波を作ります。正しくは、DSB-WC(搬送波付両サイドバンドの)信号になります。がしかし、菊水ではこの発振器の電圧自体に振幅変調を掛けています。電源電圧の違いはそのまま、出力端子に現れます。詳細は割愛しますが、大まかにはこれで振幅変調が出来上がります。後はマッチング回路を経由して、アンテナ線に給電されますが、同時に、フィルターとしての特性と、更にはマッチング回路でもあります。マッチング回路と言うのは同時に、短縮アンテナ回路にもなります。短いアンテナでも効率よく電波を発射できますが、そうは言いましても、中波バンドの電波の波長から理想的なアンテナの長さは180mにも達しますので、180mアンテナを使用するところにたったの1m程度のアンテナを使うのですから、マッチングが取れたとしても今度は輻射効率と言うパラメーターでは犠牲になります。しかしこれでも10m程度はサービスエリアになるとは思います。日本国の微弱電波の範囲に余裕で治まる事請け合い。私個人としては100mほどは余裕で飛んでほしい所ではありますが^-^;。

[トランスの1次側2次側

厳密に言いますと、一般的なトランスは、減衰比で表しますので、私の「2次側が2KΩ以内ならば」と言う表現は間違いです。がしかし、回路構成上、音声入力側が8Ω、そして変調と言う目的側が1200Ωと言う事から、便宜上、1次側、2次側を逆に表記しました。なので、実際にトランスをお求めになる場合、片側が2KΩ以内、もう片方が8Ω付近のトランスならば、どのような物でも使える、と捉えてください。


今回のような用途では、逆に捉えても全く問題は有りません。それは、流す電流が非常に低い(5V / 100ミリアンペア程度)ので大丈夫なのです。これがもし、AC110V電灯線などの高圧を扱う場合には(数アンペア)注意が必要であります。

なぜ電灯線では問題になるかは

単純に、抵抗負荷と消費電力と発熱の関係で捉えます。100Vを10Vに降圧するトランスの場合は、巻き数比もそれに近くなります。実際にこの巻き数やオーム数ではありませんが、ここからは表現として分かりやすい例えにしますが、

100回巻き : 10回巻き

これでAC100V → AC10Vへの降圧を達成させています。では、10回巻き側にAC100Vを繋げば、反対側の100回巻き側には10倍1000Vが出るのか、と言うと、答えは「Yes」です。

しかし、それでは危険なのです。

理由は


こういう事でありますわね。