4/25/2017

コンプリミッターを作ろう(1)

放送局のシステムとして、このコンプリミッター(Compressor & Limiter)と言う装置は、送信装置の次に重要であり、用いていない放送局は皆無と言われるほどです(法律で明確に使用を前提とされている)。

どういう物かと言うと、よく言われるのが、音量を圧縮する装置。ところがこの言い方だと少々分かり辛いので、

最大音量100%としますと、当然、音量を上げれる限界も100%という事になります。しかし、特にトーク番組だと、人によってはやたらと声の小さい人が居たり、やたらと声のでかい人が居たりします。ミキサー卓で逐一それらを調整していては、到底追従できません。仮にそのような方法をとっていたとしても、突然大声で笑い出したりテンションMAXになったりした場合、急いで音量を下げる事は出来ても、冒頭の数秒程度は過剰音量状態になります。

そこで、

100%を超えるレベルの音が入ってきた場合、自動的に音量を下げ、又は、10%程度しか無いような小さい声をぶっちゃけこの100%近くにまで上げる、と言う動作をリアルタイムに行ってくれる装置がコンプリミッターです。

実際の放送局ではOmnia , Optimodなどの放送局用に設計された装置を使用しますが、今回考えるのはそういった本格的な物ではなく、限りなく簡単にしかも500円以下で作ってしまえないか、と言う部分を目指します(予定です)

※Omnia, Optimodは正しくは音響効果装置、エフェクターではなく、電波に音を乗せる変調器です!

【動作】

音量を自動的に制御するのが基本動作です。

100%という最大音量を超過させない制限の中で、出来るだけ大きな音を乗せると言う動作をさせましょう。

【設計】

音量を調整する時に何を使いますか?
ポテンショメータ(ボリューム)です。


1970年代製造の年代物ですのでかなり荒れてますが、こういう物がポテンショメータと呼ばれる物です。

回路図で表すとこのようになります。

これを一般的にオーディオに用いる場合は

このように使います。ボリュームを回す事で、AB間、 BC間の抵抗値が変化し、AB : BCの比率の通りに信号量が分割されるわけです。等価回路を見てもらうと分かると思いますが、Aから入ってきた信号は、R1とR2の比率によりBへと出力されます。

R1が10KΩ、R2が1KΩだとすると、入ってきた信号を10:1の割合で減衰させて出力すると言う回路が出来上がります。もう一つ、R1が10KΩ、R2が0Ωだとすると、入ってきた信号を10:0の割合で減衰させて出力する、という事になり、この場合は出力はゼロになるわけです。細かい事を言うと、実際にはR1とR2の和は一定でありますので、10KΩ:1KΩ、10KΩ:0KΩという比率はボリュームの構成上有り得ませんが、ここでは概要だけ分かれば十分です。

ここまでの回路を、一般的には

アッテネーター(減衰器)

と言ってます。

R1とR2の比率を変化させる事で音量を調節している、というところまで説明しましたが、どちらかを固定させてもOKなのです。

つまりはR1を10kΩに固定させておき、R2のみを変化させる、って事でも音量を調整すると言う目的を達成できます。

大きい音が入ってきたら、R2の抵抗値を0Ωに向かって変化させる事で音量を抑える動作になりますが、これを人間がボリュームノブを回して調整するのではなく、電子的に行っているのが、コンプリミッターの構成の一種です。

【何を使って電子的に抵抗値を変化させる?】

コンプリミッターとは違いますが、かつてはYAMAHAなどが、放送局のミキサー卓にはモーター制御のフェーダー(スライドさせて音量を調整するボリューム)を採用した物もありました。所謂、電気式フェーダーですね。また、RCAなどではゼンマイを使用し、ボタンを押すとゆっくりとフェーダが下がるという物までありました(機械式フェーダー)。しかしどちらも現在では作られていません。

■1:VCAを使う■

Voltage Controled Amplifier。制御端子に加える電圧を変化させると、通過する音声信号のレベルが変化する、といった類の物。アナログシンセサイザーやギターのワウエフェクターなどにも用いられている媒体です。アナログのOptimodでは、

Harris社のCA3080というVCA ICが使われています。実際にはこれはVCAではなく、トランスコンダクタンスアンプと呼ばれる物で、制御端子に電圧を加えるのではなく、電流を加える事で増幅度を変化させる物ですが、原理としてはVCAと同じです。

余談ですが、元々はHarris社が80年代に製造していましたが、90年代以降はインターシル社、ナショナルセミコンダクター社がセカンドソースとしての供給元となり、現在では廃盤となっております。

■2:LDRを使う■

LED+CDSの組み合わせ。LEDの光をCDSセルに当てる事で、抵抗値が0Ωに向けて変化する物で、かつては、オプトカプラーと呼ばれており、VTL5C1などの品種が存在していました。

実は、これは自作可能です。がしかし、一応は製品もありますhttp://akizukidenshi.com/catalog/c/caphca/

左側がCDSセル。右側がLED。後はこれを黒いビニルテープでグルグル巻きにすれば完成です。

LEDを音に合わせてピカピカさせると、向かい合ったCDSセルの抵抗値がゼロΩ方向に向かって変化します。先ほどの回路で言うと、R2の部分にこのCDSをそのまま配置するだけで、後はLEDを制御すればコンプリミッターの出来上がりです。

但し

LDR式のコンプリミッターには欠点があります。それは、同じ回路が2つ必要なステレオ回路で使用し辛い点。上記の向かい合ったLDRを2つ自作したとします。しかし、光が当たった時のCDSセルの抵抗値は2つのLDRでバラツキます。つまり片チャンネルが音量ゼロになったのに、もう一のチャンネルからは音がまだ聞こえている、と言ったバラツキ。2連ボリュームを使った事のある人向けに言うと、ギャンギングエラーと呼ばれる状態が発生し、特性の揃った2つのLDRを作るのは困難と言うのが、ステレオ回路には使用し辛い点です。勿論、市販品であるVTL5C1などでも、完全に特性の揃った物は2つ購入しただけではまず有りません。なので、100個単位で購入し、特性の揃った2つを選別して使う必要があるのです。

■3:FETを使う■

トランジスターでも良いのですが、トランジスターの場合には、直線性の優れた領域で使用しなければ音が歪んでしまうと言う特性があります。勿論、トランジスターを選別すれば上手くいく場合があると思いますが私は知りません。なのでFETです。FETは別名、電界効果型トランジスターと呼ばれています。トランジスターが電流を扱うのに対し、FETは電圧を扱います。

SをGNDとして使用する場合、Gに電圧を加えると、DとS間の抵抗値がリニアにゼロΩ方向に変化します。つまり、前述したアッテネーター回路のR2の部分に、DとSを配置し、Gに制御電圧を加えると音量を抑制する方向に働く回路を構成できます。

こちらも素子により若干のバラツキはありますが、LDRほどではありませんので、ステレオ回路にも使えますね。

■4:専用ICを使う■

入手性の問題で、これはまた別個に記事にしましょう。

■5:DSPを使う■

私の分野外です(笑)。



といった感じで、次回には実際の回路をこのどれかを方式として用いて作成します。