昨年初頭には、色々と疑念を抱かれてしまう事が頻発しました。事の発端は、ある方から「お奨めのラジオ送信機は?」と尋ねられた事にありました。条件としては、
「100万円までで、ハンダゴテを使わずにすぐに使える物。電波管理法は無視。」
と言う条件で、とある中規模の送信機(500W)を紹介しました。個人が購入できる最も手軽な送信機としてはそこそこ知名度があるのですが、これを購入された方が後に発した言葉は
「これのどこがお奨めなのか。大金を投入したわりにはこれで満足できるかよ」
で、どういう訳か私に非難が。
何度も申し上げておりますが、AM放送であろうが短波放送であろうがFM放送であろうが、送信機をゲットし電波を出してそれを受信機で捉えて音を聞くと言う一連のセットで、特にFM変調タイプに関しては大抵の人の求める音質は100%得られません。
工作キットとしては幾つか送信機キットが5万円程度で存在しています。更にイベント会場で使えるような小出力な物で製品版としては、Talking Houseというメーカーからも5~10万円程度で出ています。
がしかし
それらは一部には音声圧縮回路が搭載されている物もありますが、概ねは純粋な送信装置であります。特に100万円近くする物でしたらその傾向が売りの特徴とされております。要は入ってきた音をそのまま可能な限り正確に電波に乗せるのが送信装置なのであります。FM送信機ならば場合によると20Hz~20KHzまでの帯域信号をそのまま乗せる物もありますが、普通に考えるとそれでFM放送が成立しない事が分かります(FM放送は19KHzにステレオチャンネルを制御する信号が乗ります)。がしかし、送信装置としてはそれが最も理想な品質になるのであります。中にはステレオ信号すら発生させない送信機もあります。つまりはそれらFM送信機は、本当の意味で送信機であり、別途、変調器が必要になるのです。変調器は、音声のL/Rを乗せる為の38Kサブキャリア制御やパイロットトーン19KHzの生成、文字データーRDS、プリエンファシス、オーバーレベルプロテクションなどの機能を司ります。FMの場合はこれらを変調器と呼んでいます。
で、AMの場合は外部変調器と言うのは、概ねはオーディオプロセッサーの事を指す場合が多いのです。それは振幅変調回路自体が送信回路の一部であるからですね。
そして、送信機を購入した人がガッカリするのは、一つ
「AM放送の音じゃない!」
今一度申し上げますが、私はあくまで「AMラジオ送信機」という括りだけでお奨めしたわけですので、それだけを用いたからと言ってAMラジオのような音は得られません。
確かにAMの場合はAM変調自体がそれに近いような音として電波に音が乗ります。
話しは逸れますが、敢えてAMラジオの音に拘る人の頭の中にあるのは、決して高音質ではないチープな音なのです。しかしそれは殆どの場合、受信機側がそのような特性になっているのであります。特に一般的に普及している受信機の復調回路ではスーパーヘテロダイン方式という物が採用されておりますが、原理は割愛しますがこれは基本的には復調する帯域を狭く絞って乱立する放送局が互いに重なって復調されないよう、中間周波数フィルターと言う物が採用されているのです。このフィルターによって音声帯域が狭まっているのですね。そして、この音が古くから人々の耳に馴染んだAMラジオの音として成立しました。
元々、AMラジオは送信側での音質改善にはかなりの限界があります。真空管式、PWM(PAM)式、デジタル式と言った違いでは実際に音質は変わってますが、それらが実際どう違うかと言うのは非常に分かり難い部分であります。と言うより、AMラジオ自体が送信側ではなく受信側で音質が決定される傾向にあります。あなたがAMラジオ受信機を多数比較しますと、FMラジオ受信機を多数比較するよりも大きく違いがあるのが分かるでしょう。ストレート形式の受信機は非常に高音質である、って事を言う人が居ますが、そりゃそうです。フィルター無しのストレートなんですからね^^。ただ、AMラジオに高音質を求めるってのはどうかと思いますわね。だったらFMで良いでしょ、みたいな。
そしてもう一つ、所謂ラジオっぽい音にしようとする場合は、それなりの音声処理回路が必用になります。そういった音声処理回路は基本的にはAM送信機には搭載されておりません。あくまで、AMラジオに対して音を乗せて飛ばすだけなのがAM送信機なのであります。
ですので、私が作っているAM送信機は、音響プロセッサーを用いたラジオの音になりますので(実際にRAIDEN, ASUKA以降の送信機には標準、簡易含めて位相回転、位相対称化、音量圧縮、帯域分割などの音響プロセッサー回路を搭載済み)純粋な送信機ではない、って事になりますわね。
と言った事ですので、この点を捉え違いされないようにお願いします。